意識を数学的に説明する統合情報理論(Integrated Information Theory;IIT)では、考察する対象が「存在性」と「構成性」を満たすことを要求します。これらの仮定によって、理論の基盤が定められます。
この記事では、具体的な例を交えながら「仮定とは何か」を解説します!
統合情報理論の仮定
まず、考察する対象の構成要素に関する「メカニズム」と「システム」について説明します。
メカニズム(mechanism):構成要素(element)を集めたもので、他の構成要素と因果的な関係を結ぶもの。例)脳にあるニューロン・コンピュータの電子回路にある論理ゲート
システム(system):構成要素やメカニズムをすべて集めたもの。例)脳・コンピュータ
IITでは、対象とするシステムに「存在性」と「構成性」を仮定します。
存在性(existence):ある状態のメカニズムが存在し、システムはそのメカニズムの集合である。
構成性(composition):低次のメカニズムを組み合わせることで、高次のメカニズムを構成できる。
つまり、すべての構成要素をグルーピングしたものがメカニズムで、そのメカニズムをグルーピングしたものがシステムとなるということです。
「存在性」とは何か?
構成要素ABCDEFからなるシステムについて考えてみましょう。要素Aは単体でORゲート1、要素Bは単体でANDゲート2、要素Cは単体でXORゲート3とします。そして、要素ABCを集めたものをメカニズムとして考察します。
すべての要素の関係を図1に示しました。離散的な各時刻でそれぞれの要素は0(off)または1(on)の状態にあります。そして、前の時刻の状態によって次の時刻の状態は決まります。たとえば、要素Aは要素BCDから入力を受けるため、それらの論理和(OR)が次の時刻の要素Aとなるわけです。

具体例を計算してみましょう。時刻\(t_0\)に要素DEFが、$$\mathrm{DEF}(t_0) = 010$$であるとします。時刻\(t_0\)に\(\mathrm{ABC}(t_0) = 100\)の場合は、次の時刻\(t_1\)に$$\mathrm{ABC}(t_1) = 001$$となります。これは、
- \(\mathrm{A}(t_1) = \mathrm{B}(t_0) \lor \mathrm{C}(t_0) \lor \mathrm{D}(t_0) = 0 \lor 0 \lor 0 = 0\)
- \(\mathrm{B}(t_1) = \mathrm{A}(t_0) \land \mathrm{C}(t_0) = 1 \land 0 = 0\)
- \(\mathrm{C}(t_1) = \mathrm{A}(t_0) \oplus \mathrm{B}(t_0) = 0 \oplus 1 = 1\)
となるからです。
このようにメカニズムABCに関するすべての状態遷移を求めれば、その遷移確率をまとめた表4に整理できます。
このように、すべてのメカニズムの状態は相互の依存関係によって定まり、システムとして存在しうる(存在性)のです。
「構成性」とは何か?
次に「構成性」を理解するために、先ほどと同じ要素ABCからなるメカニズムを考えます。A・B・Cはそれぞれ構成要素ですが、それ単体でメカニズムであるとみなせます。これらのメカニズムは1つの要素から構成されるため、一次メカニズム(first-order mechanism)といいます。さらに、2つの1次メカニズムを組み合わせることで二次メカニズム(second-order mechanism)、すべての1次メカニズムを組み合わせることで三次メカニズム(third-order mechanism)を構成できます。

このように、低次・高次のメカニズムを組み合わせることによって、システムとして構成しうる(構成性)のです。
まとめ
脚注
- 論理ゲートの一種であり「いずれかの入力が1であれば1を出力する」論理回路。 ↩︎
- 論理ゲートの一種であり「すべての入力が1であれば1を出力する」論理回路。 ↩︎
- 論理ゲートの一種であり「ひとつの入力が1であれば1を出力する」論理回路。 ↩︎
- ある状態から別の状態へシステム(あるいはメカニズム)が遷移する確率をすべて示した表(行列)のことで、。\(\mathrm{DEF}(t_0) = 010\)として時刻\(t_1\)のTPMを求めてみましょう。メカニズムABCが要素DEFと築いている因果的な関係を表現できます。
\[\begin{array}{c|cccccccc}
\mathrm{ABC}(t_0) \backslash \mathrm{ABC}(t_1) & 000 & 001 & 010 & 011 & 100 & 101 & 110 & 111 \\ \hline
000 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
001 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0 \\
010 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 \\
011 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 \\
100 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
101 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 \\
110 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0 \\
111 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 0
\end{array}\] ↩︎
参考文献
- Oizumi, M., Albantakis, L., & Tononi, G. (2014). From the phenomenology to the mechanisms of consciousness: integrated information theory 3.0. PLoS computational biology, 10(5), e1003588.
https://doi.org/10.1371/journal.pcbi.1003588
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